
実録借地物件あれこれ(失敗例)
実録 借地物件あれこれ(失敗例)
「親父が死んだ、母親は認知症で施設入り。どうしたらいいかわからへんねん」から始まった借地物件の相談
借地物件の相談は、単純な売却相談や空き家相談とは違い、相続・家族関係・地主との関係・建物の状況など、いくつもの問題が絡み合うことが少なくありません。
しかも、相談のスタート時点では「何から手を付ければいいかわからない」という状態になっていることも多く、整理するだけでも相当な時間と労力が必要になります。
今回は、実際にいただいた借地物件のご相談の中から、結果として売却には至らなかった事例を、あえて「失敗例」としてご紹
介したいと思います。
もちろん、すべてが無駄に終わったわけではありません。
実際には賃貸での活用に成功し、一定の収入も確保できました。相談者様から感謝のお言葉もいただいています。
ただ、当初目指していた「売却して整理する」という理想の着地までは届かず、改めて借地案件の難しさ、人と人をつなぐ難しさを強く感じた事例でもありました。
ご相談のきっかけは、突然の一言からでした
今回のご相談者様からいただいた最初の言葉は、非常に切実なものでした。
「親父が死んだ。母親は認知症で施設に入った。どうしたらいいかわからへんねん」
この一言に、すべてが詰まっていました。
相続が発生し、実家の管理を考えなければいけない。
しかし、お母様はすでに認知症で施設に入られており、実質的に不動産のことを判断したり動いたりできる状態ではない。
残された子どもたちも、自分たちの生活がある中で、使う予定のない借地物件をどう整理すればよいのかわからない。
しかも今回の案件は、建物が1件だけではありませんでした。
母屋と倉庫の2件を所有している状態で、どちらも今後使う予定がないという状況でした。
相続人は、お母様1人と子ども2人。
不動産の処分を進めるにも、相続人の整理や方向性の共有が必要になります。
さらに借地物件である以上、単に「売る」「壊す」「返す」といった話では済みません。地主様との調整も不可欠です。
この時点で、すでに一般的な不動産相談よりもかなり複雑な案件であることが分かりました。
問題は、使わないのに地代だけ払い続けていたこと
状況を整理していく中で、いくつか大きな問題点が見えてきました。
まず一つ目は、母屋と倉庫の2件を所有していることです。
しかも、どちらもかなり古く、今後使う予定はない。
にもかかわらず、借地である以上、使用していなくても地代だけは発生し続けるという状態でした。
二つ目は、建物が未登記だったことです。
借地案件では、この未登記が後々かなり大きな問題になります。
相続の場面でも、売却の場面でも、誰の名義でどういう権利関係になっているのかを整理しなければ前へ進めません。
未登記のままでは、感覚的には「家はある」のに、法的には整理がついていない状態です。
三つ目は、感情の問題です。
相談者様としては、倉庫については活用や処分を検討できても、母屋については“思い出の場所”として、しばらくはそのまま置いておきたいというお気持ちがありました。
この気持ちはとても自然なものです。
不動産の整理は、数字や契約だけでは割り切れません。
特に親御さんが住んでいた家には、どうしても思い出があり、すぐに壊す・処分するという判断が難しいこともあります。
ただ、借地物件の場合は、この「しばらく置いておきたい」というお気持ちと、「地代がかかり続ける」「老朽化が進む」「将来的に解体費が必要になる」という現実が同時に存在します。
そこが非常に難しいところでした。
まず行ったのは、権利関係の整理でした
こうした案件では、感情面も大事ですが、まずは法律的・実務的に動ける状態を作る必要があります。
そこで最初に行ったのが、相続登記の整理でした。
1. まずは相続登記を行い、代表相続人である長男名義で登記
相続人はお母様1人と子ども2人でしたが、実務上の窓口や今後の交渉の進めやすさも考え、代表相続人である長男様名義で整理する方向で進めました。
借地案件では、所有者や契約当事者が曖昧なままでは何も前に進みません。
地主様との相談も、売却の検討も、賃貸活用も、まずは「誰が窓口なのか」「誰の名義なのか」を整理しておく必要があります。
この段階で、ようやく土台が整った形でした。
倉庫は“使い道”を作る方向へ
母屋については、すぐに処分するのではなく、相談者様のお気持ちも踏まえてしばらく様子を見る方針にしました。
一方で、倉庫については、使っていないまま地代だけを払い続ける状態を少しでも改善する必要がありました。
そこでご提案したのが、賃貸借契約による活用です。
2. 倉庫を賃貸借契約へ
ただし、通常の賃貸借契約では、古い建物ゆえの修繕問題や、貸主側の将来的な整理のしにくさが課題になります。
そこで今回は、
- 修繕関係が発生しても貸主は責任を負わない形
- 将来的に貸主側から契約解除を行いやすいよう、定期借家契約を活用する形
で契約内容を整えました。
借地物件、しかも古い建物を活用する場合は、単純に「貸せばいい」というものではありません。
将来的な出口も見据えながら、貸主の負担をできるだけ増やさない設計が重要になります。
結果として、2件併せた地代以上の賃料で賃貸借契約を成立させることができたのは、この案件の中で大きな前進でした。
売却も視野に入れて地主様と交渉へ
倉庫の賃貸活用が見えてきた一方で、やはり本来のテーマは「最終的にどう整理するか」でした。
そのため、売却の可能性も並行して探っていきました。
3. 地主へ譲渡承諾料と新地代の相談
可能であれば底地売却の相談
借地物件を売却するには、地主様との関係整理が避けて通れません。
譲渡承諾料がどれくらいかかるのか。
購入者が引き継ぐ場合の新地代がどの水準になるのか。
可能であれば底地売却まで含めて調整できないか。
この部分が借地案件の最大の山場です。
いくら物件に魅力があっても、承諾条件や新地代が合わなければ、買主はつきにくくなります。
4. 利回り商品として売却提案
倉庫については賃貸借契約が成立したことで、単なる古い建物ではなく、収益を生む物件として見せることができるようになりました。
そのため、投資家向けに「利回り商品」として売却を検討しました。
実際、新地代を現在の1.2倍程度で見積もった段階では、購入希望者の確保にも成功しました。
ここまでは、かなり良い流れで進んでいたと言えます。
しかし、最終的に売却は難しくなりました。
うまくいきかけた話が崩れた原因
理由は明確です。
新地代が予想を大きく上回り、現在の約1.8倍になるためです。
借地物件の売却では、表面上の利回りだけでなく、購入後に発生する地代負担が非常に大きな判断材料になります。
今回は、当初の想定よりも大幅に新地代が上がる形となり、投資商品としての魅力が一気に下がってしまいました。
つまり、こちらがどれだけ物件として整えても、最終的には地主様との条件が成立しなければ売却は難しいという、借地案件特有の厳しさが出た形です。
現在は「収入を確保しながら将来に備える」状態
売却自体は成立しませんでしたが、完全に行き詰まったわけではありません。
現在は、倉庫の賃料と地代との差額によって、一定の収入を確保できています。
ただし、その利益は自由に使える利益というより、将来的な建物解体費用に備えるための資金として考える必要があります。
つまり、今は収支が少し改善した状態ではあるものの、根本解決が100%できたわけではありません。
そのため、現在も土地売却を並行して依頼中という状況です。
※この事例で強く感じたこと
今回の案件を振り返って、一番強く感じたのは、人と人をつなぐ難しさでした。
相談者様の思いがある。
相続人それぞれの立場がある。
地主様の考えがある。
購入希望者の採算もある。
さらに、建物に対する感情や、将来に対する不安もある。
借地案件は、単に不動産の条件だけを整えればまとまるわけではありません。
それぞれの立場や思いを調整しながら進めなければならず、その難しさを改めて実感した事例でした。
相談者様からは感謝していただいています。
実際、何もしなければ地代だけを払い続ける状態だったところを、賃貸による収入確保まで持っていくことはできました。
それでも、当初目指していた「売却による整理」には至らず、相談者様の満足度を100%にできなかったことは、正直なところ今でも悔しさとして残っています。
※借地物件は、うまくいくことばかりではない
不動産の事例紹介では、どうしても「うまくいった話」ばかりが目立ちます。
もちろん成功事例は大切ですし、参考になることも多いです。
ただ、実務の現場では、今回のように途中まではうまく進んでも、最後の条件でまとまらないということも実際にはあります。
だからこそ、借地物件では最初から
- 地主様との条件
- 新地代の見通し
- 相続人の意向
- 建物に対する感情
-
将来の解体や整理の費用
まで含めて、広く考える必要があります。
今回のように、売却には至らなくても、途中で別の活用策を見つけてダメージを減らすことはできます。
それもまた、不動産の整理においては大事な成果です。
最後に
借地物件の相談は、簡単に「売れる」「返せる」と言い切れないことが多いです。
特に相続・高齢者・未登記・思い出の家といった要素が重なると、話はさらに複雑になります。
それでも、すぐに答えが出なくても、一つずつ整理していけば、少しでも損を減らし、少しでも前に進める方法は見つかることがあります。
今回の案件は、理想通りのゴールには届きませんでした。
ですが、借地案件の難しさを改めて実感すると同時に、相談者様と一緒に現実的な着地点を探すことの大切さを学ばせてもらった事例でもありました。
借地物件でお悩みの方、
相続したけれどどうしていいかわからない方、
「使わないのに地代だけ払い続けている」という方は、早めに状況整理をすることがとても大切です。
難しい案件ほど、最初の一歩でその後が大きく変わります。
一人で抱え込まず、まずは現状を整理するところから始めてみてください。
